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◆ 2021.02.16

労働基準法Q&A・詳細解説③ 研修・研究は「無給」なの?


Q.師長から、「自己啓発のためにも、この研修を受けること」と指示され、参加しました。ところが、後日研修に参加した時間が残業とはされずに、無給だったことが分かりました。「自己啓発」なので、しょうがないのでしょうか?

A.使用者に指示され研修を受けたので、「労働時間」であり、賃金を支払う必要があります。

――電通の高橋まつりさんの過労死を始めとして長時間労働が社会問題となり、厚労省は2017年1月に「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」を発出しました。このガイドラインでは、「使用者には労働時間を適正に把握する責務があること」を明確にし、業務上義務とされている研修等も労働時間とするように規定しています。

【ここから詳細説明です】

労働時間とは
 労働基準法では、労働時間についての定義規定はおいていませんが、ILO条約や判例では、「労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい、(右の)労働時間に該当するか否かは、労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価できるか否かにより客観的に定まるものであって、労働契約、就業規則、労働協約等の定めのいかんによって決定されるべきものではない」(H12.3.9 最高裁第一小法廷判決・三菱重工業長崎造船所事件)としています。

 この判例を踏まえて、ガイドラインでは、さらに具体的に労働時間について
  1. 使用者の明示的・黙示的な指示により労働者が業務を行う時間は労働時間に当たります。
  2. 労働時間に該当するか否かは、労働契約や就業規則などの定めによって決められるものではなく、客観的に見て、労働者の行為が使用者から義務づけられたものといえるか否か等によって判断されます。
  3. たとえば、次のような時間は、労働時間に該当します。
① 使用者の指示により、就業を命じられた業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や業務終了後の業務に関連した後始末(清掃等)を事業場内において行った時間
② 使用者の指示があった場合には即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(いわゆる「手待時間」)
③ 参加することが業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講や、使用者の指示により業務に必要な学習等を行っていた時間

 質問の内容は、上記の③の具体的事例に当たります。例えば、研修・研究やレポート作成が定時に終わらず、超過勤務や持ち帰り業務になった場合でも、労働時間となります。もちろん新人であっても労働時間であることに変わりはありません。
 その際、上司からの業務指示が「○○時までやりなさい」とか、「家で○○日までにまとめてくるように」等と指示命令された場合は明確ですが、労働者が自発的に残業したり、「持ち帰り」した場合はどう考えたら良いでしょうか?
 使用者の指揮命令は、明示的なものだけでなく、「黙示」によっても成り立ちます。労働者が指示もなく超過労働を行っているのを使用者が知りながら、労働を中止させずに放置していれば、それを容認したことをなりますし、その労働の成果を受け入れている場合には、使用者は労働を承認していると見なされ、使用者責任を負わなければなりません。
 この判断は、戦前から判例としても確立したもので、戦後まもなくに出された行政解釈でも「使用者の具体的に指示した仕事が、客観的にみて正規の労働時間内ではなされ得ないと認められる場合の如く、超過勤務の黙示の指示によって法定労働時間を越えて勤務した場合には、時間外労働となる」(昭25.9.14 基収2983号)とされています。
 労働者の自発的な超過勤務を黙認しているならば、「労働時間」ですし、使用者が超過勤務手当を払いたくないのであれば、速やかに労働を中止させる措置を取らなければなりません。

 またガイドラインでは、「労働時間の記録・確認」方法についても具体的に定めていますが、別の回で解説したいと思います。「ガイドライン」そのものも一度、目を通すことをおすすめします。


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