賃上げの必要性は、認識している ー23年春・厚労省交渉 看護委員会で4年ぶりの対面要請ー

  7月27~28日、全厚労看護委員会は1泊2日の行動として、初日に厚生労働省交渉を行いました。昨年10月から新設された「看護職員処遇改善評価料」の問題や課題を含めて、来年春に予定されている診療報酬改定に向けて、約1時間半、厚労省担当官に現場実態や要望を訴えました。zoom併用で、14県29名が参加しました。

4年ぶりに厚労省へ出向き、担当官らに対面で訴えました

現場からの訴えに 頷きながらの対応

  最初に岩本一宏委員長が代表してあいさつを行いました。4年ぶりに直接対面で要請が出来たことに感謝を述べながら、担当官に「不夜城と呼ばれる過酷な状況の厚労省で働いていて、この中に職場を辞めたいと思っている方はいますか?」とずばり問いかけました。さすがに「はい」と答える人はいなかったものの、続けて「看護現場実態調査では、いつも辞めたいと思う看護師が2割以上、時々辞めたいと思う看護師を含めると8割が医療職場から離れたいと思っている。こういう状況を変えるのが国の役目。皆さん方も大変だと思うが、現場の声を聞いて、制度の改善や診療報酬の引き上げ等に活かしてもらいたい」と訴えました。

  昨年の交渉から、全ての参加者が発言できるよう自己紹介を含めて、最初に現場実態や要望を伝えてもらいました。多くの看護師から「評価料によって、職場に分断が起きてしまっている」ことや「今もコロナ対応に追われている」「働きに見合っていない」「生活悪化に対応できない」「看護職に希望が持てない」などの率直な思いが語られ、それらの発言を聞く担当官も頷きながら聞いている姿が確認できました。

  対する厚労省の回答では、「評価料については、きちんと給与の引き上げに使われているかの報告を求めているところ。賃上げの必要性については、多方面からの要望も上がっており、切実な課題とは認識している。今後どのように報酬に反映していくかは、中医協の議論も踏まえつつ、対応していきたい」とし、具体的な財源等には触れられなかったものの、「上げなければいけない」との認識は感じられる対応でした。ただ現在の評価料の仕組みが、対象病院が限定されていることなどから、ベアに充てづらいものになっているという全厚労からの指摘は、十分に理解されているとは言えない対応もありました。

看護師の増員・夜勤改善には?

  「配置基準の底上げ」や「働き方の診療報酬による規制」については、全厚労からも患者の高齢化等により、認知症対応が増えていることも再三伝えてきましたが、「各々の医療機関が、選択している医療機能に応じて適正な配置となるようにしている」との回答に留まり、さらに上位基準を設けるとか、最低基準を引き上げる必要性については、なかなか受け止めてもらえない対応でした。

  また31年ぶりとされる看護師確保法・基本指針の見直しにあたって、「月8日以内」実現に向けて厚労省の考え方を質したところ、看護課からは「看護師の確保状況を鑑みると夜勤8日達成は難しい」と、本来看護師一人ひとりに8日以内の夜勤となるように尽力すべき立場とは思えない発言もありました。

  人の命を守る医療従事者の命がないがしろにされることはあってはならないはずです。厚労省には本来の立場に立ち返ってもらうよう、もっと現場の切実な声や思いを伝える必要があると感じた対面交渉でした。


23年春・厚労省要請内容(概要)

1.「看護職員処遇改善評価料」を、全ての医療機関に働く労働者を対象にした評価制度に変更。「評価料」の大幅引き上げ。

2.医療安全のために、医療従事者の労働条件基準を満たすよう、診療報酬制度の設計や下支えのための改善。必要に応じて国の財政支援。

1)新型コロナ後の新興感染症対応を見据えた感染症病床の確保とともに、十分な収入と支出への対応が見込める診療報酬体系の構築。

2)看護職の人員配置基準の底上げ。入院基本料の引き上げ。認知症患者等の増加に伴い、一般病床の最低基準は7対1。医療労働団体との共同調査・研究。

3)医療安全と看護職の労働条件確保のため、以下の基準を診療報酬の要件に。

①夜勤1回の勤務は原則8時間

②交替制シフトにおける時間外労働の限度時間を定める

③夜勤交替制勤務者の法定週労働時間を32時間に規制、さしあたり常日勤労働者より短縮させる

④夜勤日数の上限は個人で「月8日以内(3交替の場合、2交替の場合は月4回)」。夜勤時間は平均でなく一人につき64時間以内とする

⑤勤務と勤務の間隔(インターバル)を12時間以上とする

⑥夜勤交替制労働者における最低年休取得率の規制。政府目標である最低70%を下回らない

4)診療報酬制度を抜本的に簡素化し、医療事業に必要な費用をしっかりと保障。

3.コロナ禍で疲弊した医療現場を回復させ、地域医療確保のため、医療従事者や医療機関に対する財政支援など国の予算を抜本的に増額。

4.「看護師確保法・基本指針」の見直しは、現場の看護労働者の意見を踏まえる。一人月6日以内の夜勤、業務の質や量に応じた手厚い夜勤体制の実現、社会的な役割にふさわしい賃金水準の確保など、実際の処遇改善に資するよう実効性を持たせた施策を行うべく、政策目標を明確にする。