全厚労ニュース速報11月23日秋闘速報No.8

医療・介護現場の現状と支援要請
徳島県庁保健福祉局へ要請・懇談

徳厚労執行部(要請団)と医療従事者確保について

市町村会を訪問する徳厚労執行部の皆さん

 全国キャラバン11県目は、徳島県。11月19日大栗陽(全厚労書記長)と大和崇史(徳厚労執行委員長)、楠潔代(徳厚労副執行委員長)、脇田寛子(徳厚労書記次長)(以下、要請団)は、徳島県保健福祉部へ要請しました。
 要請団は、徳島県庁保健福祉部を訪問し、医療・介護現場が経営難に直面している状況を説明し、県に対して以下の2点を要請しました。
・公的医療機関の機能維持・拡充と、医療・介護従事者の人材確保に向けた、市町村と連携した公的支援の強化。
・ 人口減少が進む中での地域医療再編において、地域住民や医療関係者の意見を聴取しながら進めること。
 要請団は、阿南医療センターの再編事例や、厚生連の阿波病院が縮小予定であることにも触れ、現場の厳しい状況を訴えました。

医療従事者確保と定着に向けた課題と取り組み
 県からは、医療従事者確保のための具体的な施策が紹介されました。医師確保の施作として県内で初期臨床研修を開始する研修医に対し、100万円の一時金を支援する新制度(令和6年度より)を開始した。県外の医師や看護師が週末等に県内で働く「メディカルワーケーション」制度を開始し実績を上げ始めているなど。看護職員確保については、看護学生向けの奨学金返還支援制度の対象枠を、従来の55名から110名へと倍増させたことなど。これらの施策により、臨床研修医の応募者が増加するなど、一定の効果が出始めていることが報告されました。
 現場からの意見として看護師から、人材確保と定着に関する提言がなされました。奨学金制度の周知が学生に十分に行き届いていない可能性を指摘し、看護学校の閉鎖により、地元に残る看護師が減少している現状への懸念と過酷な労働環境や他業種と比較して低い賃金水準が、離職や入職者減につながっていることを指摘しました。

診療報酬改定と物価高騰への対応
 診療報酬が公定価格であるため、物価高騰に追いつかず、医療機関の経営を圧迫している問題が議論されました。
 県として国(厚労省)に対し、診療報酬の引き上げを繰り返し要望していると説明しました。
 2024年度の診療報酬改定(+0.88%)では、人件費や物価上昇をカバーするには不十分であるとの認識で一致し、補助金による一時的な支援ではなく、診療報酬本体に反映させることが根本的な解決策であるとの意見が出されると、医療は重要な社会インフラであり、経営維持のためには利用者負担の増加もやむを得ないという厳しい認識が共有されました。

徳厚労執行部(県庁前にて)

DXと新たな医療提供体制の推進について
 DX化の課題について話題が移ると、要請団は地方の病院では、電子カルテの導入や更新費用が高額であることがDX化の障壁となっている点を指摘し、国が共通化したシステムを整備することが解決策として期待していると話しました。
 次に県はテクノロジーを活用した取り組みとして、人口減少や高齢化に対応するため、テクノロジーを活用した新しい医療の形が紹介しました。
o メディカルワーケーション: 先行事例として和歌山県が挙げられ、徳島県でも海南病院などで積極的な活用が見られるなど。
o 遠隔診療車両(イルマース): 看護師が過疎地を訪問し、医師が遠隔で診療する取り組み。本格導入が予定されている。
 地域連携の強化として、電子カルテ化が進むことで、地域の医療機関や介護施設とのネットワーク化が促進され、患者の移動負担軽減にも繋がると期待されていることなど。

看護師不足・公立病院経営危機・地域医療と産科体制の集約など
 要請団は、次に自治会館ビルへ移動し市町村会と懇談を行いました。市長会事務局長と総務課長と懇談し現場実態について話しました。

夜勤負担増と看護師不足の深刻化について
 要請団は現場では夜勤が特に逼迫しており、45床を看護師3名で担当し、1人15人前後を受け持つ状況であること。ナースコールが連続し対応が追いつかないなど、慢性的な人手不足であること。7対1の配置基準をギリギリで維持しており、年休取得が難しくなっているケースが発生している点など。コロナ禍で病床を閉めた後、再開を目指すも、コロナ明けに看護師が他県へ就職し病床再開が滞っている現状などを説明しました。
 事務局長も現行の配置基準・制度設計が実情に合っておらず、特に夜勤体制の見直しが必要との認識で一致しました。

高齢患者増加・認知症対応の課題について
 次に要請団は、90代患者が増え、認知症による理解困難や安全確保が大きな課題と指摘し、介護現場の不満や事件発生の報告があり、看護・介護双方で疲弊が進行していると話しました。在宅ケアの限界が露呈しており、病院の役割維持が地域に不可欠とも指摘しています。

地域偏在と医療圏の現状について
 徳島県内では看護師数は人口比で多いが、東部医療圏など都市部に集中なども指摘し、西部医療圏は医師・産科・小児科の不足が特に厳しい。池田などからの移動距離が長く負担であることや分娩施設の閉鎖や取扱い制限が進み、吉野川医療センター等への集約傾向であることなど、個人産婦人科の閉院や分娩取りやめが相次ぎ、訴訟リスクや24時間体制維持の困難が背景にあると説明しました。

病院経営の危機と政策要請について
 事務局長は公立病院の83%が赤字(令和6年度見込みでは90%超の可能性)。大学病院も大幅赤字で研究・教育機能が圧迫していることや全国市長会が国に対し、公立・公的病院への直接支援を要請しているが、診療報酬改定は即効性が乏しく、上げ幅も小さい見込みであると話しました。また病院は料金の独自改定ができないため、他の公共料金と異なり赤字補填が困難である点や、厚生連病院はJA本体からの直接補助が基本的に無く、厳しい経営下に置かれ、全国的に民営化・指定管理等の事例が増加していることなど意見交換しました。物価上昇下で医療分野の賃上げが遅れ、内部見立てでは1〜3%程度に留まる可能性であるが、各種関連団体は10%以上が必要との声もあると紹介しました。

制度設計の時代不適合について
 現行の医療制度について、30〜40年前の制度設計(7対1等)が現状の昼夜逆転・高齢化した病棟運用に適合していない点や夜勤中に休憩や食事・水分摂取も困難な実態があり、制度再設計の必要性を関係自治体へ提言してほしいという要望を出しました。

研修医制度・施設魅力の影響
 研修医制度の選定から外れた病院は人材確保が困難。徳島に残る研修医は1学年30〜40人程度で取り合い状況である。施設の新しさ・快適性が患者・人材の誘因となり、建替・設備更新の効果が指摘されました。

 

 

県は医療機関の診療報酬・介護報酬を強く要望
香川県健康福祉部へ要請

香厚労執行部(要請団)と看護師不足を訴え

香厚労の皆さんと県庁前にて

     
 全国キャラバン12県目は、香川県。11月20日大栗陽(全厚労書記長)と常政智弘(香厚労執行委員長)、佐野寛(香厚労書記長)、黒澤太郎(全厚労中央執行委員)(以下、要請団)は、香川県健康福祉部へ要請しました。
 県は国に対し、近年の経済状況や物価上昇を反映した診療報酬・介護報酬の改定を強く要望していると語りました。池田香川県知事が直接厚生労働省に赴き、物価や人件費の上昇を織り込むよう要請したそうです。長尾健康福祉部長は高市政権下で診療報酬・介護報酬の途中改定に関する議論が始まっており、要望が反映されつつある可能性があることを示唆しました。

 次に要請団は、香川県厚生連の病院(屋島、滝宮)では、計画に対し20人近く看護師が不足していることを説明し、理由として実質賃金の低下やボーナスカットが悪循環を生み、離職者が増加。結果として病床を閉鎖(平床・休床)せざるを得ない状況が発生している実情を訴えました。さらに、1~2年目の若手や、本来定着するはずの主任クラスの管理職の離職も増えていることなど事態の深刻さを示しました。看護師志望者自体も減少:しており、看護学校への入学者数が激減しており、看護師のなり手が不足している点や、夜勤など肉体的・精神的に厳しい労働環境や、他産業に見劣りする給与水準が原因で、看護職が選ばれにくくなっていることや、親が看護師として働く姿を見て、その大変さから子供が看護師を目指さなくなるという懸念も示しました。実際の労働環境といえば、時短勤務制度はあるが、人員不足のため実際には定時で上がれず、制度が形骸化している。院内保育所などの制度を利用すると、他の職員にしわ寄せがいくため、利用しづらい環境があることなど赤裸々に語りました。

医療DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進と課題について
 要請団は、記録業務や同意書の説明など、看護師の事務的負担が増大している現状から、医療DX(電子カルテ、AI問診など)の導入により、業務効率化と負担軽減が期待されるが、経営が厳しい地方の病院では、電子カルテすら導入できていない病院がある事実について指摘し、電子カルテを導入していても、追加機能の活用にはコストがかかり、紙カルテ運用と変わらない使い方になっている場合がある。県としては、今後、どのようなDXが有効か情報収集を積極的に行い、推進していくべきとの考えが示されました。

香川県市長会・町村会事務局へ訪問
 要請団は、県に先立ち自治会館内にある市長会・町村会事務局へ訪れました。あいにく担当者が不在で懇談は叶いませんでしたが、一言メッセージまとめを事務局へ配布しました。

 

 

吉田病院の財政問題と地域医療の危機
安芸高田市長、市議会員と懇談

県議会議員との意見交換も

玉重広島県議会議員と語る広厚労執行委員

 全国キャラバンは、番外編として11月21日、広島県安芸高田市を訪れ、広厚労吉田支部事務所にて玉重広島県議会議員と意見交換を行いました。
 県議に対し、吉田病院は全国的に見ても収支状況が特に厳しく、労働組合は「いつ経営破綻してもおかしくない」と認識していると話しました。現状が続けば、直近2〜3年での閉鎖はないものの、将来的な撤退も視野に入り、安芸高田市の地域医療に深刻な影響が出ることが懸念されることを共有しました。
 特に、小児科:は患者数の少なさから非常勤体制となっており、理事長は縮小せざるを得ないとの見解を示しています。一度医師がいなくなると復活は非常に困難であり議論が必要であると考えています。さらに病院では看護師不足により病床を削減しており、入院患者の受け入れが困難になっている。療養型病棟の復活や一般病棟の増設も、看護師不足で実現できていません。
 県議からは、市は吉田病院を「民間企業」と捉える傾向が強く、公的医療機関としての重要性が十分に理解されていないことや、そのため、広報や支援が不十分であることを指摘しました。そして、市議会も機能不全に陥っており、現場の重要な課題が議論されていない状況を説明されました。

診療報酬制度の問題について
 執行部は、補助金に頼らなければ病院経営が成り立たない現行制度そのものに根本的な課題があることと、本来は診療報酬だけで経営が成り立つべきとの意見が出しました。
 現在、12月上旬の診療報酬改定に向け、全国キャラバンを実施中。東京都が「最低でも10%の引き上げ」を声明として出したことを受け、県からも同様の声を上げてほしいとの要望を行いました。

補助金制度の課題について
 執行部はさらに、国の「地域医療介護総合確保基金」は、他の補助金との併用(二重取り)ができない制約があり、現場のニーズと合っていない。これにより、必要な設備の更新や廃棄すらままならない状況であることを明らかにしました。
 国の補助制度は地方自治体の財政負担を伴うため、財政に余裕のない自治体では制度を十分に活用できない現実を訴えました。

人件費と賃上げの実態について
 執行部は「人件費高騰」と言われるが、民間病院では実際には賃上げが他産業に比べて遅れている。ベースアップ評価料が導入されても、一時金減額で相殺されるなど、職員の給与に反映されていない実態を説明しました。

人口減少と地域格差について
 執行部は安芸高田市では若者の流出が加速しており、「消滅可能性都市」としての危機感があることを語り、職員の定住を促すため、家賃補助や住居手当などの具体的な要求案が提案しました。民間企業から定住促進の動きが出れば、行政も追随しやすいとの意見もありました。さらに、地方で育てた人材が都市部で税金を納めるという構造的な問題や、ふるさと納税が本来の趣旨から外れ「金持ちの節税」になっている点が指摘しました。特に、地方の重要性が都市部で理解されておらず、もっと地方を大切にしてほしいとの声が上がった。岩本委員長は、病院を核としたまちおこし「メディカルタウン構想」が提案し、安芸高田市がモデルケースになる可能性が示唆しました。実現には初期投資が課題となります。

行政・政治との連携について
 県議からは、報道の減少により住民の関心が薄れている懸念があり、支援者の協力のもと、チラシのポスティング活動が行われていると話されました。そして、年に1〜2回配布される県政報告で吉田病院の特集を組み、現場の状況やポジティブな側面を伝え、年内の全戸配布を目指していると語られました。今後、医療・介護分野へ6000億円規模の財政支援が見込まれる中、県の役割が重要になるとの認識が共有されました。自民党の当選議員がグループにとって重要な窓口であり、今後も連携していく方針が確認されました。
 市長にも協力を要請し、地域から病院がなくならないよう働きかけていくことで合意しました。

 

 

安芸高田市長との懇談

 

地域医療の現状と病院規模の適正化(ダウンサイジング)
 要請団は県議との懇談後、安芸高田市役所を訪れ、藤本安芸高田市長と福祉保険部部長と懇談しました。
 市長は外来部門(小児科・耳鼻科・眼科)の不採算が大きく、縮小圧力が高まっている一方、縮小後の非常勤医師の再確保は困難との懸念を示しました。
 要請団は、看護師不足により病床削減を余儀なくされ、患者需要はあるが人員不足で縮小が続く現状を共有しました。市長は病院単体での赤字最小化が理事長方針であり、地域規模に見合った適正化を図りつつ、フルスペック維持は困難と認識していると話しました。また、在宅・福祉施設・病院のバランスを再設計し、支援可能範囲と病院の経営可能範囲の妥協点を厚生連と協議中であると話し、医療圏は三次、安佐北、北広島などを含み、診療科縮小時の紹介先として同地域を想定していると説明しました。

藤本市長(左から3人目を取り囲む広厚労要請団、右端は福祉保健部長)

救急体制の維持と地域影響について
 次に要請団は安芸高田市議会議長以下、市議会議員3名と懇談しました。
要請団は、小児科縮小は子育て世代の定住に悪影響を及ぼし、待ち時間増や入院拒否の未来を懸念しました。
そして、婦人科は担当医の高齢化で継続困難懸念であり、泌尿器科を含め介護施設からの受診需要が高く、科消滅による受診先喪失が懸念されます。
医師人事は大学主導で都市集中が進み、地方の医師確保が構造的に困難になってきており、産科も過去に医師不在・出生数減で維持困難になっている現状を確認しました。
 市議たちと中山間地域では救急が最重要との共通認識し。吉田で診てもらえる利便性が高く、近隣病院への依存は限定的であるべきとの考えを共有しました。
救急は赤字が大きいが、医師会連携や人員配置の工夫で維持策を検討しているところだとの考えが示されました。

医療DXについて
 吉田病院では、紙運用による会計待ちの長さ等が患者不満・業務非効率の原因となっており、医師・看護師は電子運用に慣れており、紙は生産性低下の要因になっている点を指摘しました。国は医療DXを推進していて、尾道・廿日市では導入済みで、吉田総合病院のみ未導入であることを話しました。
 導入できていない原因は導入投資・維持費が障壁となっており、フルスペック不要の共同利用・クラウド共有での最適化が提案されました。これもまた、セキュリティとガバナンス設計が課題となります。

病院の老朽化と財政難と支援要望について
 また、吉田総合病院では建物の老朽化や人件費の上げにくい状況であり、DX投資には資金難が伴い、医療機器・設備更新も必要で労働者の賃金が後回しになっています。病院規模縮小は避け難く、市の医療ビジョンに沿った終着点に向けた資金支援を要請しました。その他、税制改正(通勤費課税議論、医療機器の消費税負担)への懸念があり、診療報酬は横ばいのまま費用は増加し赤字拡大されてきました。

人材確保・定着への環境整備について
 看護師不足は市内外・県内で深刻。若年層の地域定着が難しく、生活利便性の不足やコロナ禍による交流減が離職を加速している現状について説明しました。世代間コミュニケーション不足や職場のハラスメント・雰囲気改善が課題であり、労組は経営側と改善交渉中です。また、同じ総合病院でも初任給格差(例:広島市民病院や国家公務員看護師との比較)で採用競争に不利であり、厚生連初任給21~22万円に対し競合は高水準で採用競争に不利であることも付け加えました。

予防医学・人間ドッグの強化について
 病院を「病気を治す場」から「健康を守る場」へ転換する予防医療の強化を提案をし、健康指導・採血等によるリスク管理を拡充することも必要になってきます。その点、吉田病院の人間ドックは利用が多く収益性が高い傾向です。職員活用も進み、派遣・受け入れ枠拡大の余地があります。

病院間連携・資源共有の改善
 要請団はグループ内で新しいベッドが他院で廃棄されるなど非効率な資源管理を指摘した上で、医療情報のクラウド共有し、病院間アクセスの整備を提案(セキュリティ配慮が必須)しました。
 また、開業医との連携を重視しつつ、院内開業モデル(家賃支払い・入院は本院へ)のアイデア提示。開業医の高齢化・後継不足も課題です

市民ニーズの把握と自治体支援の必要性
 要請団は、厚生連から市民が病院をどれほど必要としているかの調査・熱意の可視化を要望しています。
 市議たちは、市は医療を優先課題として予算支援検討に前向きですが、県の医療計画との整合性確保が前提であると述べました。
 公共交通の見直しで吉田総合病院へ寄れるルートの検討可能。住民が病院を選ぶための機能再設計が課題とも話しました。

感染症対応と病院の役割
 コロナ対応で病院の存在意義が再確認されましたが、今後の新興感染症にも備える体制維持が重要であると指摘しました。
 最後に労組・行政・厚生連が連携し、地域医療維持に向け協力継続することで懇談は終了しました。

高本広厚労執行委員長と三次駅から吉田総合病院まで
ゼッケンアピールしました。

 

次回、全厚労ニュース速報No.9南国奮闘篇(
仮題)を予定しています。