呼び出し時(オンコール)の労働時間はいつから?

Q.休み中に呼び出し(オンコール)を受けることがあります。その場合、勤務時間はどのように扱いますか? なお、これまで呼び出し時から勤務としてきましたが、ICカードによる勤怠管理に伴い、打刻時からの変更を提案されています。

 A.本来、労働者は労働を提供する義務のない日時にまで、働く必要はありませんが、人員不足で、不測の事態に満足に対応できない医療提供体制の下で、呼び出し(オンコール)勤務が常態化しています。呼び出し勤務の考え方には、いくつかの判例も出されていますが、未だに「個別具体的判断」というグレーゾーンとなっているのが実態です。

 ――「労働時間」の基本的な考え方は、「使用者の指揮命令下にある時間」とされています。労働義務のない時間に、指揮命令によって「時間的」「場所的」に拘束を受けている場合には、労働時間とあたると解されています。

詳細説明はここから。

労働時間とは、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間であり、明示的であっても黙示的であっても、指示があったと見なされる時間は、労働時間です。

現在の法解釈では、呼び出しに備えて自宅待機していても、実際に「呼び出し」がない状態では、労働者は自由な時間の過ごし方が出来ると、見なされてしまっています。(本来、休日として旅行や少し遠出したくても行けないという「不自由」な状態にも関わらずです)。

実際に呼び出しがなされた場合にのみ、その時点から労働時間として算定されることになります。その際の通勤時間については、「労働時間とはいえない」という解釈が優勢のようですが、私たちが行ってきた厚生労働省交渉では、「ケースバイケースで個別具体的な状況で判断される」として、確実に「呼び出し時点から勤務に向かうまでの時間」を「労働時間ではない」と断言している訳でもありません。「呼び出しを受けた時から労働時間にカウントされる」と説明している解説も多数見受けられます。

もちろん、病院・施設内に「待機」させられている状況であれば、それは「使用者の指揮命令下におかれた状況」であり、実際に労働をしていなくても「手待ち時間」であり、労働時間と解されます。

医療機関には宅直勤務というものがありますが、これについて裁判所は、「自宅で待機していて急患などが発生した場合に、病院から呼び出され出勤するというものについては、呼び出しがない限り労働時間には当たらないが、病院内で待機している宿日直については労働時間に含まれる」と判断しました。(奈良県(医師時間外手当)事件 奈良地裁 平21.4.22判決)

労災保険では、緊急呼び出しを受けて出勤する場合の災害時の扱いは、通常の通勤とは異なって、「通勤災害」ではなく、「業務災害」とされます。

緊急呼び出しに応じて出勤することは、その通勤時間も拘束することになり、全くの無給という訳ではなく、通常はその拘束性に対しての対価(例えば呼び出し手当など)を支払うことが妥当との解説が一般的です。また「自宅待機」を命じている場合には、「待機手当」を宿直勤務と同等程度に支給した方が良いと解説しているところもあります。

なお設問のケースに限っていうと、現行の労働条件で、「呼び出し時から労働時間としてカウントしている」ということが労働協約・協定や就業規則上の規定となっていれば、当然のごとく、「労働時間」ですし、それを「不利益に変更したい」となれば、労働契約法8~10条に定められた必要な労働条件変更手続きを経ないで、一方的に変更することはできません。文面としての規定がなくても「慣行」として適用されていたとしても、当然のごとく、使用者と労働者が合意してきた労働条件ですから、新たな合意なしには変更できるものではありません。