12時間夜勤を提案されています

Q.経営者から、「経営改善のため」「2交代夜勤でないと若い人が確保できない」との理由で、12時間夜勤を提案されています。どういう問題点や課題があるのでしょうか。

 A.労働基準法では、第32条で、「1週間の労働時間は40時間」かつ「1日の労働時間は8時間」と定められています。ですから原則として、1日8時間を超える「所定労働時間」はあり得ません。例外的な時間外労働の定めである労使協定(36協定)を行えば、12時間働かせることは可能ですが、シフト勤務にはできません。そのため、1日8時間を超える労働を「所定内」で行うには、労基法32条2項で定められた「変形労働時間制」を導入することが必要になります。

 ――「変形労働時間制」は、隔日勤務(タクシー等)や、ある一定期間(一月)で、繁忙期や閑散期があるような職場で、「1日8時間、週40時間」の規定によらず、平均して週40時間に収まれば、ある日の労働時間を長くしたり、短くしたりできる制度です。しかし、そもそも看護職場のように24時間365日、患者に対応する職場にはふさわしくないものです。それに夜勤自体が身体に負担をかける業務だということも考慮する必要があります。

-以下、詳細説明となります。

頻繁な勤務交代職場では認められない「変形労働時間制」

この「変形労働時間制」を導入する場合には、「変形期間における各日、各週の労働時間を具体的に定める必要があり、『変形期間を平均し40時間の範囲内であっても使用者が業務の都合によって任意に労働時間を変更するような制度はこれに該当しない』(昭和63.1.1 基発1号、平3.1.1 基発1号、平9.3.25 基発195号)」とされています。また各日、各週の労働時間の定め方については、「就業規則において、できる限り具体的に特定すべきものであるが、業務の実態から月ごとに勤務割を作成する必要がある場合(医療機関のような ※全厚労注)には、就業規則において各直勤務の始業終業時刻、各直勤務の組合せの考え方、勤務割表の作成手続き及びその周知方法等を定めておき、それにしたがって各日ごとの勤務割は、変形期間の開始前までに具体的に特定する」(昭63.3.14 基発150号)とされています。

つまり12時間夜勤などの変形労働時間制を導入するには、具体的な勤務パターンとともに、勤務表作成のルールなどが定めなければいけません。また就業規則が整備されたとしても、確定した勤務表により、各日・各週の所定労働時間と休日が固定されるため、決定後の勤務シフト変更は原則、出来ません。その後に、使用者の都合で勤務時間が変更されるような場合や、突発的な事由により、勤務交代などが頻繁に発生する場合には、そもそも変形労働時間制が認められません。仮に勤務変更となった労働者については、当初のシフト(所定労働時間)を越える勤務として、割増し残業代の対象となり、賃金計算などが、煩雑になる可能性があります。

労働条件は、患者の安全と労働者の健康を第一に考える

日本看護協会は、「夜勤交代制のガイドライン」の中で、基準2「勤務の拘束時間は13 時間以内とする」と提言しています。この「基準2」をもって、12 時間夜勤だとか、12 時間日勤(スーパー日勤やロング日勤)を認めるような看護管理者がいますが、ガイドライン(ブックレット40 ページ)では、「日勤・夜勤の12 時間勤務を推奨しているのではありません。日勤にせよ夜勤にせよ、あくまでも上限値を示したものです。労働基準法の定める労働時間は8 時間ですので、8 時間以上の労働時間は長時間労働であるという認識を持ちましょう」と述べており、あくまでも「8 時間労働」が基本で、残業などがあっても「拘束時間で13 時間を超えないように」ということです。

労働組合としては、「まずは患者の医療安全の確保、それと同時に労働者の健康管理確保の実現のために労働条件を考える」という考え方を基本に置く必要があると思います。

事故発生(安全性)リスクでは、日勤よりも夜勤の際のリスクが高いこと、8時間労働よりも12時間労働のリスクが高いことが研究結果として出ています(図、労働科学研究所・佐々木司さん資料より)。「労働時間はできるだけ短く、夜勤回数は出来るだけ減らす」ことが患者、医療従事者どちらにとってもプラスとなる改善方向です。

(労働科学研究所・佐々木司氏の講演資料より)

いずれにしろ、労働条件の変更には、労働者や労働組合との合意が必要ですし、とりわけ「不利益な」労働条件変更となれば、その必要性や内容についての説明や十分な労使協議が必要であることは、当然です(労働契約法第9条、10条参照)。