以下は、23秋での厚労省への要請書です。
2023年11月2日
厚生労働大臣 武見 敬三 殿
要 請 書
全国厚生連労働組合連合会
中央執行委員長 岩本 一宏
日頃の厚生労働行政におけるご尽力に心より敬意を表します。
私たちは、農村・中山間地域、へき地の医療の維持・発展のために、JA厚生連病院で日々奮闘している医療・介護労働者です。
新型コロナ発生から4年近くが経とうとしています。WHO(世界保健機関)は5月5日に新型コロナ「緊急事態宣言」終了を発表し、日本では5月8日以降5類感染症に移行しました。しかし医療現場において従事者は、これまでのコロナ対応で疲弊が続き、この夏も新型コロナとインフルエンザの同時流行など、感染症対応は予断を許しません。いつ何時でも人員体制を確保することを考えて、医療従事者は自由な行動が今も制限されています。
現場での緊張もさることながら、この3年間に入ってきた新人は、学校でも実地研修がままならず、就職してからもしっかりとした研修・教育も受ける機会が限られ、早々に離職してしまうケースや、日本看護協会の調査でも長期勤続者の離職増加が明らかになるなど、全体として離職傾向が上昇し、現場の人員不足は、かつて以上に深刻になっています。
また厚生労働省の入退職調査では、現形式の調査で始めて、医療・福祉労働者の「入職超過率」がマイナスとなったことが発表されました。
もちろん、人員不足による状況が厳しいのは医療・介護業界だけではありませんが、医療・介護は、国民の重要な生活インフラであり、抜本的な処遇改善なしに、人材確保は困難です。
岸田政権は、21年度補正予算において、「看護処遇改善事業補助金」を創設し、令和4年2月から9月は月4,000円、10月からは診療報酬による「看護職員処遇改善評価料」として、12,000円の給与引き上げを目指しましたが、実施された賃金改善のほとんどが手当の引き上げとなり、基本給のベースアップについてはごく一部にとどまっているのが現状です。対象病院や対象看護職を限定する中で、現場での矛盾や分断は、さらに拡がっています。また、介護職にいたっても、月9,000円を目指し「介護処遇改善手当」が創設されましたが、医療機関に従事する介護職が対象外となるなど制度と実態が異なっています。
看護職を始めとした医療職や介護職の給料引き上げこそが、いま日本の喫緊の課題です。
新型コロナが5類に移行後、コロナ入院対応を一般病棟で行うようになったため、医療・介護現場は、さらに逼迫・疲弊しています。住民が安心して暮らせる地域社会をつくるために、地域医療を維持、医療・介護産業の人員確保を進めるため、私たちは以下のことを求めます。
記
1.「看護職員処遇改善評価料」(22年10月~)は、特定病院の看護職員数しか算定されないと同時に、それを原資に他のメディカルスタッフへも支給可能としているため、チームである医療現場において、矛盾や職員間の分断を拡げています。薬剤師や事務等を含めて、全ての医療機関に働く労働者を対象にした評価制度に変更すべきです。
また併せて「評価料」自体の大幅引き上げを行うことを求めます。
1)「看護職員処遇改善評価料」の対象者を薬剤師や事務等を含めて、全ての医療機関に働く労働者を対象にした評価制度に変更すること。また「看護職員」のみ支給対象となるような誤解を招く名称は変更するか、包括的に医療現場職員を対象とするものに変更すること。
2)少なくとも対象病院を救急受け入れ台数200件/年(直近半年100件)とする制限は除くこと。
3)当該保険医療機関は変動する診療報酬を懸念し、その多くが「手当」で賃金改善を行い、診療報酬が引き下げられればその手当で調整を考えているため、安定的な賃金改善とはなっていません。賃金改善は基本給の引き上げ(ベースアップ)で行うよう指導をすることに加え、2/3以上を基本給の引き上げ(ベースアップ)に限定するよう制度を改めること。
4)介護処遇改善事業補助対象にあたっても、医療機関で働く介護職や介護施設に働く看護職も医療機関と同様に賃上げが可能となる制度に改めること。
全国の厚生連病院は、大部分が救急医療管理加算を取得し、R2年度での救急搬送件数200件以上を満たしている中で、医療機関全体の中では、処遇改善補助金対象病院の割合が多くなっています。しかし、法人としては各道県厚生連であり、本来、労働条件として同じであるはずの賃金が、対象病院・対象職種であるか否かによって、違いが生じています。全厚連は「事務等も含めて全ての医療機関労働者の公平な賃上げを政府に求めている。少なくとも全ての看護職員に対して自己資金を含め処遇改善に対応したい」との姿勢をもっていますが、現実には、①金額を減らしてメディカルスタッフ含めた職員への支給、②対象・非対象病院を問わず全看護職員への一律支給、③国の制度通り、対象病院・対象看護職のみへの支給、④その他などと、各法人も相当悩みながら制度設計をしています。
問題なのは、配属病院や部署が、自らで選択できないにも関わらず、非対象病院に勤務している看護職や、対象病院であっても訪問看護や外来勤務のため、支給対象でないなどのため、対象者とその他職員が混在し、医療現場の分断をもたらすようなものになっていることです。
22年9月までの4,000円水準が12,000円へと変更になったことで、この分断や矛盾がさらに大きくなっています。私たち労働者からすれば、医療機関や介護施設で働く職員全てが、同様に賃金底上げとなるような制度改革を希望しますが、少なくとも全ての看護職に対して、等しく賃上げとなるような仕組みとならなければ、処遇の格差を招いてしまい、人材確保の面からも逆効果になりかねません。
現状ほとんどの当該保険医療機関が、次期診療報酬改定での引き下げを懸念し、基本給引き上げに踏み切れず、手当での改善にとどまっています。診療報酬改定で引き下げられれば、その手当も同様に引き下げられることは明らかで、本来の目的である「安定的な賃金改善を確保する観点」を担保できていません。
最初にも述べたように厚生連は、各県連一法人のため、対象病院が限定されることで、賃金表の底上げ(ベースアップ)導入には慎重にならざるを得ません。せっかく厚労省が「評価料の3分の2をベースアップに」と条件を付けても、対象病院・対象職種のみの手当として処遇し、将来不安の残る給与制度にならざるを得ません。
当該保険医療機関には厚労省から、賃金改善は基本給引き上げ(ベースアップ)で行うよう指導をすることに加え、2/3以上を「基本給の引き上げ」による改善となるよう制度を改めることと、「看護職員処遇改善評価料」については当面診療報酬改定で引き下げられないような仕組みの構築や、中医協に提案・働きかけを行い、当該保険医療機関が安心して基本給を引き上げることのできるようにすることを求めます。
またこれまで厚生労働省は、「診療報酬はあくまで診療の対価であって、賃金水準を定める性質のものではない。賃金・その他の労働条件は一義的に労使協議によって決定されるべきもの」と説明を繰り返してきました。しかし、今回創設された評価料は、月1万2千円の賃金原資を保障するために、対象看護職員数と3ヶ月の延べ患者数によって、165段階の点数を付けるという算定方法となっています。患者が受けた診療行為ではなく、入院した医療機関の看護体制によって、点数が定められ一定の患者負担を強いるものになっています。もちろん患者対比の看護体制によって、より手厚い看護を受けているとの理屈もあると思いますが、看護賃金の一部分とはいえ、明確に賃金原資としての診療報酬を算定するということが可能であれば、しっかりと看護職にふさわしい賃金水準を確保するための診療報酬や、介護職に対する介護報酬を設定してもらいたいと思います。
2.医療安全のために、医療従事者の労働条件基準を満たすよう、診療報酬制度の設計や下支えのための改善を行うこと。必要に応じて国の財政支援を行うこと。
1)医療現場での「働き方改革」や労働諸法規遵守を進めるため、「労務管理評価料(仮称)」として、時間外労働の基準や年休等の休暇取得基準に対して、加算が取れるようにすること。
診療報酬は「診療に対する評価」との考え方に基づいて決定している、とこれまで厚労省は説明をしてきましたが、一方で「看護職員処遇改善評価料」は、具体的に看護職員の賃上げ原資(メディカルスタッフにも活用可能)として、直接的な診療とリンクした形でない、報酬体系を創設しました。現行の診療報酬では医療従事者の時間外労働は、直接的には評価されていません。また診療や業務を行っていない医療労働者の年休取得も、もちろんながら評価されていません。しかし、現実の医療労働者は、診療業務を行うため、恒常的な時間外労働も発生しており、そのための賃金原資は診療報酬から捻出をされています。全厚労や医労連が5年事に調査してきた「看護現場実態調査」では、時間外労働や「不払い残業」も少なく、年休消化も進んでいる職場では、「患者に対する十分な看護が出来ている」と答える看護職が多いという結果も出ています。もちろん、看護師一人ひとりの主観的な評価ですが、明らかに「余裕のある働き方、リフレッシュできる職場環境」が、「労働の質、看護の質」を高めていることは、容易に想定できます。看護・医療現場からの離職傾向を食い止め、人員確保をするためには、賃金とともに「働き方」の抜本的な改善を行う必要があるとともに、そのような労務管理(マネジメント)を行っていることを、しっかりと点数として評価すべきと考えます。
2)新型コロナ後の新興感染症対応を見据えた感染症病床の確保とともに、十分な収入と支出への対応が見込める診療報酬体系を構築すること
3)看護職の人員配置基準を抜本的に改め、底上げを行うとともに入院基本料の引き上げを行うこと。認知症患者等の増加に伴い、一般病床の最低基準を7対1とすること。政府・厚労省として実態把握を行うため、医療労働団体との共同調査・研究を含めて、行うこと。
現在、休床しているからと言って、病床削減することは、感染症急増時の即応を困難にするだけです。災害時の場合には、全国からの一時的な応援態勢などでの対応も可能でしょうが、今回のようなパンデミック対応では、どの地域でも、一定の余裕病床と人員を確保しておかなければ対応は困難です。人員も現在のようにギリギリで回しているような患者対比基準ではなく、「働き方」改革を担保するような平時の人員体制を考慮して、診療報酬制度を構築してもらいたいと考えます。
患者の高齢化等に伴う認知症患者の増加など、従来よりも介護や見守り、注意が必要な患者が増加しています。また認知症患者による暴言、暴力、危険行為などもあり、現在の人員体制では、対処できなくなっています。看護師の実際の手間や業務量は、2倍3倍かかっています。現場は急性期の7対1看護でも体制不十分と感じており、7対1は急性期というより、一般病床での最低基準の配置と考えます。人員配置基準の底上げこそ必要です。通常の夜勤体制は、3~4人程度です。認知症患者には昼も夜もありません。厚労省は現在の夜勤をどのように捉えているのか、現場への実地調査を含めて、実態を把握するべきだと考えます。厚労省の手が足りないのであれば、積極的に医療労働組合で調査されている、様々な職場実態調査を積極的に活用し、政策に活かすべきです。経営者サイドよりも、現場に近い労働組合の方が、現場の問題を熟知していますし、継続的に課題を追い続けていて、情報の蓄積もあります。
医療従事者の負担軽減・処遇改善に向けた様々な報酬加算制度が設けられていますが、制度も多く、要件が複雑で細かいため、加算を取るために新たな業務や負担が増えることも多く、逆効果との意見も出ています。またそもそも人員不足地域である地方の厚生連病院では、要件を満たすこと自体が困難です。
制度はシンプルにし、まずは入院基本料によって、必要な人件費を確保できるようにすべきです。制度を整理し、シンプルで新たな業務負担とならないような方向へ見直しすることが効果的だと考えます。また認知症患者の対応は業務の2倍3倍化を招いています。どの病床でも最低限7対1水準の人員配置が必要な実態であることを認識して、診療報酬上も対応すべきです。
4)医療安全と看護職の労働条件確保を両立させるため、以下の基準を診療報酬の要件に加えること。
①夜勤1回の勤務は原則8時間までとすること
②交替制シフトにおける時間外労働の限度時間を定めること
③夜勤交替制勤務者の法定週労働時間を32時間に規制することを目指し、さしあたり常日勤労働者より短縮させる規制を導入すること
④夜勤日数の上限は個人で「月8日以内(3交替の場合、2交替の場合は月4回)」とすること。夜勤時間は平均でなく一人につき64時間以内とすること
⑤勤務と勤務の間隔(インターバル)を12時間以上とすること
⑥夜勤交替制労働者における最低年休取得率の規制を設けること。少なくとも政府目標である最低70%を下回らないこと
⑦夜勤体制は、患者10人にあたり看護師1名以上とすること
労働基準法は、労働者の「最低基準」の労働条件を規定しています。1日8時間労働は、労基法32条に定められた労働時間の原則です。この制限が定められたのは、人間は機械ではなく、栄養補充や休息・睡眠が必要な生身の生物だからこそ、将来に渡って労働力として成り立つように人類の長い運動の歴史で確立されたものです。休日・時間外労働が命じられるのは、緊急の災害時を除いては、例外的に労使間で、労基法36条に定める36協定を結ぶことで可能となります。残業や休日労働が恒常的に発生している状況では、働き続けることは困難ですし、資格職である医療労働者が医療労働市場から離れてしまうことは社会的な損失です。
現行、診療報酬での労働条件規制としては、夜間労働の平均72時間規制がありますが、本来、安全な医療提供体制を担保するための制限であるはずです。夜勤日数にしろ、長時間労働にしろ、医療における安全性確保には適切な労働条件確保が欠かせません。平均規制だけではなく、合わせて個人の上限を示した規制基準を要件として盛り込むことが必要ではないでしょうか。
1992年、看護師確保法・基本指針が定められ、看護師の賃金・労働条件、人材確保・育成方策などの考え方が示されました。夜勤については「複数月8日以内」が掲げられたものの、それから約30年、看護師の処遇改善は進んでいません。1965年の人事院「2-8(ニッパチ)」判定からは、57年もの月日が経っています。
また厚労省は、2011年6月に「看護師等の『雇用の質』の向上に向けた取り組み」として、医政局、労働基準局、職業安定局、雇用均等・児童家庭局及び保険局「5局長通知」を発出しました。そこでは医療・介護・健康関連産業が「日本の成長牽引産業」として位置づけられるとともに、厳しい看護職等の勤務環境改善に向けた施策が掲げられました。その後、2013年2月に医薬食品局を加えた6局長通知も発出されました。
民主党政権下での施策ではありますが、6局長通知は、安倍政権誕生後に発出されたもので、行政は継続しており、過去の厚労省交渉でも「5局長通知、6局長通知は生きている」と回答されています。
現在においても、医療・介護・健康関連産業は、特に地方経済における基盤産業であり、これからの成長分野で変わってはいません。総務省の「産業連関表」での試算でも、これらの分野は経済波及効果が大きく、積極的な投資を行うことで、地域経済を回し、発展させていくことが期待されます。また少子化の中で、看護・介護等の資格職が離職しないように、制度的保障を行わなければ、医療や社会保障に関わるインフラが崩壊しかねません。
人員不足の解消が進まない中で、一人あたりの夜勤日数の増加や休暇取得が困難になり、在院日数短縮や医療の高度化、認知症患者の増加等による過重労働がいっそう進み、医師・看護師等の「過労死・過労自死」も相次いでいます。
看護師確保法・基本指針では、月8回(日)までの夜勤制限が基準として示されていますが、健康で働き続けられる交代制シフトのためには、「正循環」が求められており、そのためには月6日への改善・規制が必要です。「健康で業務に意欲を持って取り組める」環境づくりに、政府はしっかりと取り組むべきです。
「働き方改革」法では、時間外・休日労働の上限時間が原則定められましたが、「特別条項」を結べば、「過労死水準」まで働かせることが可能です。2008年に高裁判決が確定した「村上優子さん過労死・公務災害認定裁判」では、夜勤交替制勤務の過重性から、月60時間でも過労死水準であると認定されました。厚労省自体が月45時間以上の時間外労働は過労死リスクが高まる節目だと説明している中で、サーカディアンリズムに逆らって働く夜勤(交代制)労働者には、さらに厳しい上限規制が必要ですし、そもそも「交代制」のシフト勤務者は、次のシフト労働者に業務を引き継ぐことが前提であって、現在のような時間外労働ありきのシフトは、「ありえない」ことだと認識すべきです。
この点でも、多くの過労死裁判に携わってきた「過労死弁護団」の川人博弁護士は「交代制勤務者は時間外労働月40時間でも過労死の危険がある。もっと言えば、交代制勤務者の時間外労働そのものがリスクである」と指摘しています。特に夜勤交替制勤務者は、「特別条項」対象外であるべきです。夜勤の過重性や「発がんリスク」などを考慮して、夜勤交代制労働者の労働時間は抜本的に縮減すべきです。罰則のない規制はなかなか達成できませんが、診療報酬の要件になれば、否応なく実施しなければ収入自体が得られないため、経営者も必死にならざるを得ません。「働き方改革」を進めるためには、診療報酬による誘導が必要です。
厚労省は、「夜勤と発がん性についての国内での知見は定まっていない」として、国際的ながん研究機関である、IARCの研究結果や、国内の研究者による研究も認めていません。長年夜勤に従事していた看護師が50代にさしかかったところで、乳がんなどを発症するケースは、私たちが常に経験している事実です。一人ひとりの夜勤制限につながる規制を具体的に一つひとつ積み上げていくことが求められています。
認知症患者の増加等により、看護師一人あたりの「労働負荷」は年々増加しています。夜間であっても患者の活動量は高い状態にあり、患者の急変や不穏患者の見守りなどは、夜間に頻発しており、患者の安全にとっても夜間の人員配置基準は必須です。少なくとも患者10人に看護師1名以上の配置(2007年、参議院での国会決議)を行うことが求められます。例えば1病棟単位で31~40床では、夜勤看護師4名はどうしても必要です。
夜勤にうまくなじめず、辞めていく看護師が増えています。看護協会はプラチナナース活用促進など高齢者の看護師活用を打ち出していますが、そもそも高齢者の夜勤も身体的負担が大きいものです。年齢を問わず、夜勤負担の軽減なしには、全世代的な看護師確保は難しいと考えています。
看護職場はこれまでも数多くの離職者と「潜在看護師」を生み出してきましたが、これを食い止めるためにも、特に夜勤規制や安全確保策など、一つでも可能な条件を要件として、導入していくすべきと考えます。
5)診療報酬制度を抜本的に簡素化し、医療事業に必要な費用をしっかりと保障すること。
診療報酬制度をシンプルにすることは、医事職員の負担軽減とともに、医療費全体の中での事務経費負担軽減にもつながるものと考えます。現在、人(医師・看護師等)・モノ(医療機関・医薬品材料等)両方の医療資源が限られている中で、政府も地域における医療機関の機能分化・連携を推進しようとしていますが、結果としてより多くの収益を上げようとして、民間病院では、高収益が見込める医療に集中していく一方で、公立公的医療機関が、いわゆる「不採算」部門を担うという構造を改めることが必要だと考えます。
医療機関の維持コストと診療への評価をシンプルに位置づけつつ、必要な費用はしっかりと保障することが、国民医療費をより合理的に適正化していくのではないかと考えます。
3.コロナ禍で疲弊した医療現場を回復させるとともに、地域医療確保のため、医療従事者や医療機関に対する財政支援など国の予算を抜本的に増額すること。
1)厚生連が担っている農村中山間地・へき地医療の確保のため、財政支援を強化すること。
2)新型コロナ対応に対する緊急包括支援交付金制度を継続すること。また必要に応じて、減収補填など今後の医療機能維持を見据えた財政支援を行うこと。
この間のコロナ関連補助金により、多くの公的病院では一定の収支水準を維持することが出来てきましたが、実際の医業収支は赤字のままで推移をしています。コロナ5類後の回復には、相当な時間がかかるだけでなく、公的病院自体がそもそも赤字運営を続けている状況の中で、継続した財政支援がなければ、地域医療の維持・確保はできません。
3)地域医療構想消費税収を財源とする「地域医療介護総合確保基金」による病床減らしを止めること。今後の新興感染症発生も考慮し、非常時に対応できるよう余裕ある病床確保と、余裕を持った人員体制を維持するためにこそ「総合確保基金」を活用すること。
改正医療法で、「社会保障充実のため」とされた消費税収を、病床削減した場合の補填として使われることになっているのは、本末転倒です。災害時や感染症対策を含めて緊急時即応可能な余裕を持った病床を確保することが重要なことはもちろん、人員体制においても平常時から一定の余裕がなければ、災害・緊急時の即応は出来ません。
現在の入院基本料は、過去平均して患者対比を保つことが要件ですから、将来の緊急的な医療需要を満たすものにはなっていません。想定される緊急時を100%として、70~80%稼働でも一定の余裕ある人員体制の維持ができる制度とすることが求められます。そのことによって、医療従事者の平常の「働き方」も確保され、魅力ある職場へと変えることができると考えます。
4.見直しされている「看護師確保法・基本指針」の内容に実効性を持たせるための施策を具体的に進めること。またさらに、一人月6日以内の夜勤、業務の質や量に応じた手厚い夜勤体制の実現、社会的な役割にふさわしい賃金水準の確保など、実際の賃上げや処遇改善に資するよう、具体的な施策と予算を大幅に確保すること。またそのために必要な看護職員数や育成対策など、中・長期的な政策目標を明確にすること。
5.2024年4月の医師の「働き方改革」施行まで、あと半年にせまっています。厚生労働省として、医師確保と処遇改善に向けて、どういう見通しを持っているか明確にすること。医師不足を看護職やコメディカルへのタスクシフトで対応するのではなく、医師養成数を増やし、OECD並みの水準に引き上げること。
6.病院での薬剤師確保に向けた抜本的な対策を行うこと
1)病院薬剤師・薬剤部門に関わる専門の担当部局を設置すること。病院薬剤師の実態を踏まえた人材確保に向けた方策を検討・実施すること。
2)病院薬剤師の配置基準を引き上げること。そのための診療報酬を大幅に引き上げること。
3)薬剤師の多くが奨学金の返済を理由にして病院勤務よりも調剤薬局を選ぶ傾向が継続しています。公的病院において病院薬剤師を確保するため、厚労省として奨学金の返済に充てられる助成を行うこと。また病院勤務を条件とした奨学金返済の減免制度や給付型奨学金の制度を創設すること。
政府は、「薬剤師確保計画ガイドライン」を策定し、各都道府県の医療計画の中で、薬剤師確保計画を持つように指導していますが、喫緊の課題である「病院薬剤師」の確保対策としては、不十分な施策と財政措置と言わざるを得ません。政府の目標偏在指標でみても、病院薬剤師は全ての都道府県で1.0を下回っており、厚生連病院の存在する道県では、21道県18県が「薬剤師少数都道府県」とされています。医師・看護師確保と同様に薬剤師においても、病院薬剤師確保対策に早急かつ手厚く支援することが必要です。
以上