(労働経済ジャーナリスト・小林美希さん 第35回看護集会・特別記念講演から)
過酷な現場を知り取材続ける
私は経済記者から「就職氷河期」の派遣社員・非正規雇用の問題を追うなかで労働問題を取り上げるジャーナリストとして特化し、同世代のライフステージから周産期医療や保育についても取材するようになりました。 就職氷河期では手に職をつける医療関係に人気があり取材してみたのがきっかけで、医療現場が驚くほど過酷なこと、看護師の切迫流産など異常出産の多さにも気づかされました。また取材する中で看護師には自分たちの大変な問題も明るく話せる人や社会に意識を向けた魅力的な人が多く、このままやりがいを失った大変な現場のままではいけないと感じ、取材を続け書籍刊行に至りました。
看護が「作業」になっていないか
都内大学病院に勤める看護師への取材からコロナ対応の過酷な状況を聞き、夜勤のない美容関係のクリニックに転職する看護師が続出し、実習ができないまま入職した新人やベテランが疲れ果てバーンアウト寸前という状況が分かりました。しかしコロナ以前から現場は看護師不足で崩壊寸前、または崩壊していると思います。
人手不足は看護師の健康や家庭を犠牲にし、看護が「作業」と化すことで、ますますやりがいを失い離職を促してしまいます。夜勤の間、認知症で徘徊する患者を車いすにベルトで縛ってナースステーションに集め、食事の時はテーブルに固定し一斉に流れ作業で食事介助を行うなど、精神科病棟以外でも拘束せざるを得ない状況が看護師の心を傷つけています。病棟ではオムツを替える時刻が決まっているため、排尿があっても無視、便が残っていても替えてあげられず、お尻がかぶれてしまっても陰部洗浄もできない。効率だけを求め業務をこなしている状況に、取材を行ったベテラン看護師は「まるで車の修理と同じ」で「ここだけ直す、部品交換」に現場がなっていないか心配されていました。
いま急性期がとにかく治すことに集中し「人間の整備工場」と化していて、「いい看護がしたい」と運動してきたベテラン看護師ほど「看護が失われているのでは」と感じるのだと思います。
白衣で街頭に出る意味は大きい
現場は大変ですが、労働組合の運動の成果で看護師確保法ができ、厚労省から5局長通知が出るなど成果をあげてきたことから「明るく楽しく」運動を行うこと。1989年ナースウェーブが始まった時(講演資料①)のように街頭に出て、白衣を着て皆の前に出ていくことが非常に重要です。
保育の問題でも「異次元の少子化」と言われる前に、杉並区で保育園に入れなかった母親たちが赤ちゃんを抱っこし区役所を取り囲んで訴えた運動(2013年)がありました。その時マスコミは、母親たちが路上に出てきてくれたので写真を撮り新聞やテレビで取り上げることが出来ました。そして全国的にワッと火がついて保育や待機児童の問題が政治的な課題になり、国の目玉政策にまでなりました。路上に出て、私たちの抱えている問題を訴えることは、マスコミで取り上げられ広がるきっかけとなります。

調査結果が社会に訴える力
また労働組合が定期的におこなっている経年調査は、客観的な指標となり、世の中を説得するために大切だと感じます。
私は2009年に医労連の調査で分かった「看護師の切迫流産が3割を超えている」ことを経済誌で記事にしたいと思いましたが、編集からは「看護師の切迫流産率が他の職種より高くなければ記事には出来ない」と言われました。あらゆるところに電話をかけ、全労連が医師・介護士ほか全産業の切迫流産の率を取っていたので他の職種と比較することができ、この問題を雑誌に掲載することができました。組合の調査がなければ活字(記事)にならなかったと痛烈に感じました。

今後の私たちの課題
医療は「社会的共通資本」で、社会の共通財産です。患者の尊厳を守るために看護師がいて、良い看護の実現のためには看護師を守っていくこと。自己犠牲ではなく、心ある看護のための運動を今一度盛り上げていければと感じています。
皆さんは自分の家族や大切な人を自信を持って働いている病院へ入院させることができますか?この問いを毎回講演で聞いていますが、手を上げる方はだいたいゼロ人です。これが現状を示していると思います。
各職場や仲間と話し合って「これからどうしていきたいか」深めていって下さい。救急搬送された時、病院は選べません。病院の質がバラバラ、どこへ行ったかで受けるケアが違ってはいけないと思います。全国で良い看護・医療を目指していきましょう。ぜひ、みなさんの現場のことを教えてください。私も活字を通して社会に問題を訴えていきたいと思います。
(文責・編集部)
グループワークまとめ
看護集会2日目にグループワークを行い各講演やナースウェーブに参加してみた感想のほか、「自分たちが本来やりたい看護」「自分の職場でできること」「社会・行政への働きかけ」の具体案について話し合いました。
まとめ集会では、「患者さんのベッドサイドでのケアや患者家族にも寄り添った看護がしたい」、「看護師の人員に余裕があることが自分たちの本来やりたい看護ができることにつながる」、「職場では部署異動が多いため各病棟ルールをシンプルにすること、希望の異動ができるようにすること」などが話されました。また社会・行政への働きかけでは、ナースウェーブで署名をしてくれた人に「頑張って」と声をかけてもらえ、署名をしていない人もプラカードを読んでくれていたこともあり、今後も行動が重要だと決意表明もありました。
