実録!ベア獲得への道・広島編

労働者の実質賃金が23か月マイナスとなる中で、実施されるべき定昇だけでは、生活水準の低下は避けられない。24春闘は、大手企業を中心に大幅賃上げが回答される一方、医療・福祉分野では、賃上げ回答も限られている状況で、4月15日現在、厚生連では広島と秋田で具体的なベアを獲得。今回は全国に先駆けて、ベア1万円を獲得した広島の団交経過を取り上げる。

第1幕 徳島に続き、ベア確約

第1回団体交渉は、3月14日に実施。前日の回答指定日には、「経営状況が悪く年度末一時金は出せない。定昇実施。年間一時金4.5か月」の回答は出ていたものの、ベースアップについては、「情報が少なく判断できない」という回答に留まって、具体的なものは何もなかった。少なくとも金額はともかく、ベア実施の「確認書」を取ろうと追求した。幸いにも前の週にあった徳島の団交で、「賃上げは手当ではなく、ベースアップで行う」ことを確認していたことが功を奏した、

高本委員長の「徳島でベアを行うのに、当然、広島はベアを出すんじゃろう」との一言に、「ベア実施」の口頭回答を引き出すことにそう時間はかからなかった。

尾道支部長はハンスト(ハンガーストライキ=絶食・減食による抗議の示威行為)を予定していたが、その見せ場もなく、スト回避された(注:広厚労ではかつて、実際に無期限ハンスト闘争を実施したことがあった)。

ベア確約回答の一番手は逃したが、徳島がストライキ実施も辞さず、ベア確約をしてくれたことが、こちらの交渉にも有利に働いたことに、深く感謝をした執行部一同だった。

 第2幕 年度末支給を確認

3月27日に開いた団交では、年度末一時金の具体的な金額を引き出したかったが、会本部は「経営状況が厳しい」との主張。労組は「近くの岐阜でも例年通りの0.65か月、三重でも15万円の一時金を出している。さすがにゼロ回答はないだろう」と追求し、「年度末一時金は支給する」ところまでの口頭回答を引き出すところで終了した。

 第3幕 他労組とユニオン協定!?

前回から10日ほど経過した4月8日、第3回目を実施。この日は年度末一時金が主題で、執行部は30分前に組合事務所で意思統一を行った後に、少し前に会場に入って、人事課が用意してくれた2ℓのお茶を紙コップに注ぎゴクリと喉を潤した。

当日は雨も降っており参加者は少数精鋭で、団交を始めた。

一時金がメインだったものの、おカネの話を先にしてしまうと、後に現場の話が行いにくくなるため、最初は夜勤協定の不履行について質問し、現場の大変な状況と看護師の採用状況や今後の対応などについて話を進めた。

その後、広島支部で行われた新人オリエンテーションでのやり取りについて協議した。ある情報筋によると広島支部以外の他組合から、「病院とユニオンショップ協定締結予定であるから新人の方は(広厚労でない方の)組合に入るように」と説明があった、との情報が寄せられていた。よもやと思い、確認のために広島総合病院の事業局長へ「ユニオンショップについて話合いを行っているのか?」と問うと、素直に首を縦に振り事実と認めた。

我々は、協議中の事を利用し、一方の組合への加入を誘導するような事は問題であること、また「労使協調」としながら、病院ではそれに反するようなことが行われている事に対して会本部の見解を求めた。会本部は「知らなかった」と答え、「広島総合病院の事業局長から当該労組に厳重注意を行う」ようにその場で直接指示を行った。

我々は、「このような事では労使協調できない」と伝え、「現在は広厚労各支部(尾道・吉田)でユニオンショップ協定を締結しているが、労使協調というなら会本部と広厚労本部とで締結すべき」と提案したところ、会側からは「今後話をして行こう」と回答が得られたので、ようやく主題の一時金に話を移した。

前回からの前進回答を求めたところ、「3万円支給したい」と回答。高本執行委員長は「年度末一時金が3万円ということは、ベアは1万円するのか?」と問い質したところ、「難しい」とのつれない返事。また今後の経営改善策の提案もなく、広島支部での案件でも気分を害しているので「本日の妥結は難しい」と伝えた。

最後に組合員への年度末一時金の早期支給と、ベアについては、試算を行うことを約束させて、3日後に次回団交を開くことで、この日の交渉は終了した。

 第4回 ベア1万円の大台で妥結

約束通り、3日後11日の団交では、年度末一時金とベア実施についての大詰めの交渉をむかえた。

参加者に妥結内容を提案する高本委員長(右)

理事長から試算結果が伝えられ、「診療報酬でベア8千円程度が確保できそうだが、ベア1万円となると2千円の持ち出しになる。しかしなんとか頑張ってやりたい」との意思が示され、その場で団交参加者に回答内容を諮り、年度末一時金3万円とベア1万円での妥結を決定した(写真)。また年間一時金で調整されては困るので、例年通りの「年間4.5か月+2万円は確保する」旨の確認書も合わせて取ることにした。当然、労組としては今後も上積みをしていく。

ある程度、長引くことを予想していたが、他県の情報も活用した交渉と、トータルメリットを考慮しての判断が功を奏した24春闘となったと考えている。

(近村勝也書記長 記)