全厚労は24年11月5日、24秋闘で取り組んでいる厚労省交渉を中執+αで行いました。その際の要請書は以下の通りです。
※詳細な要請項目と要請根拠を記載した文書は以下のPDFを参照して下さい。
2024年11月5日
厚生労働大臣 福岡 資麿 殿
要 請 書
全国厚生連労働組合連合会
中央執行委員長 岩本 一宏
(公印省略)
日頃の厚生労働行政におけるご尽力に心より敬意を表します。
私たちは、農村・中山間地域、へき地の医療の維持・発展のために、JA厚生連病院で日々奮闘している医療・介護労働者です。
新型コロナウイルス感染症は、昨年5月8日以降5類感染症に移行しましたが、医療・介護現場においては、従前と同じように感染症対策を講じており、この間も、新型コロナやインフルエンザなどの感染症の波は継続しており、現場の多忙や緊張は収まりをみてはいません。今後も起きうる新興感染症の発生やまん延に備えるためには、平時から、余裕のある人員体制を確保することが必須となります。
今、現場の人手不足は過去にないほどに深刻な状況です。これは、厚生労働省の22年の雇用動向調査で「医療、福祉」の入職者数113万8,100人に対し、離職者数が約121万人で、入職超過率は0.9ポイントマイナスになったことや、日本看護協会の22年病院看護実態調査で看護職の離職率は、正規職員で11.6%、新卒採用者10.3%、既卒採用者16.8%となり、いずれも前年より離職率が増加しているなど、数字でも如実に表れています。
人手不足はさらなる労働環境の悪化や、医療・看護の質の低下につながりかねません。全国の医療従事者35,933人から回答を得た日本医労連「2022年看護職員の労働実態調査」では休憩時間が「きちんと取れている」のは、「日勤」24.1%、「準夜勤務」21.8%、「深夜勤務」28.0%、「2交替夜勤」26.8%。7割以上が、法で定められた休憩時間の取得ができていません。また、この3年間にミスやニアミスを起こしたことが「ある」のは86.0%と非常に高率であり、「医療・看護事故が続く大きな原因」では、「慢性的な人手不足による医療現場の忙しさ」が86.3%と突出して高い結果となっています。看護についても十分な看護が「できていると思う」は僅か2.2%、「大体できていると思う」は30.5%であり、合わせると32.7%と3割に留まっているのが現状です。そしてその十分な看護ができない理由として「人員が少なく業務が過密」との回答が8割強です。人員不足による状況が厳しいのは医療・介護業界だけではありませんが、医療・介護は国民の重要な生活インフラであり、コロナで疲弊し、離職が入職を上回る状況を抜本的に転換させるにためは、社会的役割に見合った賃金・処遇へ大幅な改善が必要不可欠です。22年からの「看護職員処遇改善評価料」はほとんどが「手当」での引き上げとなり、基本給のベースアップについてはごく一部にとどまっています。また、24年の診療報酬改定でのベースアップ評価料は、物価上昇や他産業の賃上げには追い付いていないことや、対象外の職種があること、同一法人内での一律の賃上げが困難な設計になっていることなど、不十分であり早急に改善することが求められます。
看護職を始めとした医療職や介護職の給料引き上げと、職場環境の改善に資する大幅な増員こそが、いま日本の喫緊の課題です。住民が安心して暮らせる地域社会をつくるために、地域医療を維持、発展させるため、私たちは以下のことを求めます。
記
1. 医師・看護師をはじめとして、医療・介護従事者不足によって、地域の医療・介護崩壊が、現実のものとなっています。人員確保のためには、他産業と遜色ない賃金が必要です。医療・介護業界からの人材流出が進む中で、医療・介護提供体制を維持するには、国の直接的な賃上げ支援が必要であり、国費による大幅賃上げ策を求めます。
また特に厚生連が担っている農村中山間地・へき地医療の確保のため、人件費のみならず、水光熱費や建築資材・機材・材料費高騰と、それらに伴う消費税負担増に対する財政支援を強化することを求めます。
2.2024年度診療報酬改定で創設された「ベースアップ評価料」について、以下の点について明らかにするとともに、具体的な対応を行うことを求めます。
1)医療機関におけるベースアップ評価料の申請状況と、賃上げ額及び率のデータについて開示すること。ならびに現時点での厚労省としての賃上げ目標への到達状況、今後の課題についての認識を示すこと。
2)厚労省が目指すベースアップ評価料では、2024年度にプラス2.5%、2025年度にプラス2.0%の賃金引上げ目標を掲げていますが、評価点数は2年間変えないとしています。また厚労省の25年度概算要求でも、医療従事者の賃上げ対策の項目は見当たらず、これでは、少なくとも2.0%の具体的な賃金原資が確保できるはずはありません。24年度に赤字病院が拡大しているとの報道もある中で、政府・厚労省として、このままで政府目標が達成できると考えているのか、お聞かせ下さい。また8月の人事院勧告では、医療職(三)表で高卒3年課程で、3万円を超える改訂など、初任給と若年層中心とした賃上げも勧告されている中で、その整合性をどのように確保するつもりなのか、認識をお示し下さい。このままでは、他産業との賃金格差を埋めるどころか拡大するばかりです。早急に大幅引き上げの臨時改定を行うこと。
なお「ベースアップ評価料」の引き上げが、さらなる患者負担とならないよう、自己負担の算定から「除外」すること。
3)25年度の賃上げ目標値を、諸物価高騰への対応、他産業賃金格差是正などのため、8.0%へ引き上げ、それを支える診療報酬の抜本的な引き上げ、及び、交付金の活用などの財政支援を行うこと。
4)対象職種を医療機関で働く全ての職員を対象とすること。また、同一医療法人で病院や診療所を運営する医療機関では、ベア評価料の財源を柔軟に活用できるよう改定を行うこと。
5)賃金表のある医療機関でのベースアップは基本給の引き上げ(賃金表改定)で行うことを要件とすること。既に「手当」での申請を行っている医療機関についても、次期届け出までに、基本給の引き上げを行うよう指導すること。
6)介護報酬改定について、「介護職員等の処遇改善」のプラス改定は全く不十分であり、介護職員の賃金水準を全産業平均水準まで引き上げるための、再改定を行うこと。また、深刻な人手不足、物価高騰などで倒産が過去最多となるなかで、訪問介護の基本報酬の引き下げは直ちに撤回すること。
3.「看護職員処遇改善評価料」(22年10月~)は、特定病院の看護職員数しか算定されないと同時に、それを原資に他のメディカルスタッフへも支給可能としているため、チームである医療現場において、矛盾や職員間の分断を拡げており、以下の改善を求めます。
1)「看護職員処遇改善評価料」は、「ベースアップ評価料」と一本化して、職員一人当たり12,000円の引き上げ分となるよう、制度改善と予算確保を行うこと。
また、少なくとも対象病院を救急受け入れ台数200件/年(直近半年100件)とする制限は除くこと。
2)当該保険医療機関は変動する診療報酬を懸念し、その多くが「手当」で賃金改善を行い、診療報酬が引き下げられればその手当で調整を考えているため、安定的な賃金改善とはなっていません。賃金改善は基本給の引き上げ(賃金表改定)で行うよう指導をすることに加え、2/3以上を基本給の引き上げ(賃金表改定)とするよう制度を改めること。
4.医療安全のために、医療従事者の労働条件基準を満たすよう、診療報酬制度の設計や下支えのための改善を行うこと。必要に応じて国の財政支援を行うこと。
1) 医療現場での「働き方改革」や労働諸法規遵守を進めるため、「労務管理評価料(仮称)」として、時間外労働の基準や年休等の休暇取得基準に対して、加算が取れるようにすること。
2) 新型コロナ後の新興感染症対応を見据えた感染症病床の確保とともに、医師、看護師等の医療労働者を大幅に増員できるだけの、十分な収入と支出への対応が見込める診療報酬体系を構築すること
3) 看護職の人員配置基準を抜本的に改め、底上げを行うとともに入院基本料の引き上げを行うこと。認知症患者等の増加に伴い、一般病床の最低基準を7対1とすること。政府・厚労省として実態把握を行うため、医療労働団体との共同調査・研究を含めて、行うこと。
4) 医療安全と看護職の労働条件確保を両立させるため、以下の基準を診療報酬の要件に加えること。
①夜勤1回の勤務は原則8時間までとすること
②交替制シフトにおける時間外労働の限度時間を定めること
③夜勤交替制勤務者の法定週労働時間を32時間に規制することを目指し、さしあたり常日勤労働者より短縮させる規制を導入すること
④夜勤日数の上限は個人で「月8日以内(3交替の場合、2交替の場合は月4回)」とすること。夜勤時間は平均でなく一人につき64時間以内とすること
⑤勤務と勤務の間隔(インターバル)を12時間以上とすること
⑥夜勤交替制労働者における最低年休取得率の規制を設けること。少なくとも政府目標である最低70%を下回らないこと
5) 診療報酬制度を抜本的に簡素化し、医療事業に必要な費用をしっかりと保障すること。
6) 看護師が十分なベッドサイドケアを行えるよう、入院書類等の事務作業、カンファレンスなどの抜本的な簡素化を促す診療報酬体系を設計すること。看護クラークなどの配置へ国が財政支援を行うこと。
7) 地域医療構想消費税収を財源とする「地域医療介護総合確保基金」による病床減らしを止めること。今後の新興感染症発生も考慮し、非常時に対応できるよう余裕ある病床確保と、余裕を持った人員体制を維持するためにこそ「総合確保基金」を活用すること。
5.病院での薬剤師確保に向けた抜本的な対策を行うこと
1)病院薬剤師・薬剤部門に関わる専門の担当部局を設置すること。病院薬剤師の実態を踏まえた人材確保に向けた方策を検討・実施すること。
2)病院薬剤師の配置基準を引き上げること。そのための診療報酬を大幅に引き上げること。
3)薬剤師の多くが奨学金の返済を理由にして病院勤務よりも調剤薬局を選ぶ傾向が継続しています。公的病院において病院薬剤師を確保するため、厚労省として奨学金の返済に充てられる助成を行うこと。また病院勤務を条件とした奨学金返済の減免制度や給付型奨学金の制度を創設すること。
6.リハビリテーション専門職の処遇改善についての対策を行うこと
1) 医療関係職種の中でも給与水準の低い理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の診療点数を大幅に引き上げること。
2) 診療点数引き上げによる増収が理学療法士・作業療法士・言語聴覚士の給与に反映される仕組みを構築すること。
以上