必要な医療と安心して働ける職場を守るために
病院の役割や人員配置はどう変わるのか、地域住民は身近な場所で受診できるのか。新たな地域医療構想と骨太方針2026は、私たちの仕事と地域の暮らしに関わる政策です。医療を受ける人と支える人の立場から、押さえたいポイントを考えます。
二つの政策はどうつながるのか
地域医療構想は、都道府県が将来の人口や医療需要を見据え、地域の医療提供体制を考える計画です。新たな構想では2040年を見据え、入院医療に加えて外来・在宅医療、介護との連携、人材確保まで対象を広げます。ガイドラインは、その計画をつくり、話し合いを進めるための国の指針です。
背景には、高齢化による医療需要の変化と、働く世代の減少があります。ただし、都市部と人口の少ない地域では状況が異なります。人口が減っても、広い地域を支える救急や住民に必要な医療まで、同じ割合で減らせるわけではありません。
一方、骨太方針は、政府の経済財政運営や予算編成の基本的な方向を示します。2026年の方針は、病床数の適正化を実施した上で、地域医療構想を踏まえた医療機関の連携・再編・集約化を進めるとしています。財政・制度改革の方向を示す骨太方針と、地域ごとの医療体制を具体化する構想を、つなげて読むことが大切です。
新たな構想では、病院全体が担う「医療機関機能」も明確にします。急性期拠点、高齢者救急・地域急性期、在宅医療との連携などです。自分の病院に求められる役割と、それに見合う設備や人員の確保が問われます。
必要病床数はどう計算されるのか
推計の基本は、性別・年齢別の入院の割合である「入院受療率」に、2040年の推計人口を掛けることです。受療率には、診療報酬の請求情報などを集めた国のデータベース「NDB」の2024年のデータを使います。見込んだ患者数を、病床の使用割合を表す「病床稼働率」で割り、必要な病床数を求めます。
ただし、今回は人口変化だけを反映する計算ではありません。「改革モデル」として、これまでの構想の見込みと実際の医療需要との差、病床削減支援事業による削減、一部のリハビリ患者の在院日数短縮などの効果を織り込みます。病床削減については、削減が見込まれる病床を患者数に換算し、将来の患者数を減らす方向に反映します。
示される数字には、人口変化に加えて政策の効果が織り込まれています。入院が必要な患者を受け入れられるか、退院後の医療や介護を確保できるか。その条件を検証せず、計算結果だけを病床削減の根拠にすることには問題があります。
同じ患者数でも、稼働率を高く設定するほど必要病床数は少なくなります。ガイドラインは、デジタル化などによる効率化を見込み、推計に使う稼働率を引き上げています。ただし、各病院が目指す数値ではないと明記しています。感染症や救急患者の急増に対応する余裕も欠かせません。
急性期と包括期の違いを理解しよう
従来の「回復期」に、高齢者などの急性期患者への治療と、入院早期からのリハビリを行う機能を加えたのが「包括期」です。治療とともに生活機能を支え、在宅復帰につなぐ役割であり、充実させること自体は重要です。
一方、需要推計では、これまで急性期に区分していた75歳以上の患者の半数を、包括期の需要として見込みます。国は、手術・処置などの実施状況を踏まえて設定していますが、高齢者でも重い病気や複数の疾患を抱え、手厚い観察・治療を要する人は少なくありません。年齢による大きな区分で、必要な医療を十分に捉えられるのかが論点です。
国の機械的試算では、2040年の必要病床数は合計106・9万床で、2025年の病床機能報告の116・4万床より約9・5万床少なくなっています。急性期は50万床から24万床となり、包括期は41・6万床とされています。ただし、現状の報告と将来推計では算出方法が異なり、機能区分も変わります。「急性期が半減する分だけ病院のベッドがなくなる」と単純に読むことはできません。
推計上の区分は、年齢だけで患者を転院させたり、看護配置を一律に決めたりするものではありません。しかし、病棟転換で人員が減れば、患者の状態に対応できなくなる懸念があります。看護、リハビリ、栄養管理、服薬支援、退院調整などの仕事量に見合う配置が必要です。「包括期だから少ない人員でよい」という判断は認められません。
受診できなかった人の需要を見落とさない
診療報酬の請求情報に表れるのは、実際に医療を受けた結果です。病院が遠い、交通手段がない、費用が心配、必要な診療科がないといった理由で受診できなかった人の需要は、十分に表れません。受診実績の少なさを、そのまま医療の必要性の低さと考えることはできません。
新たな推計は、地域内の医療機関に入院する患者数を基本とします。地域外への流出や地域外からの流入も考慮できますが、その背景の確認が必要です。例えば、住民が隣の地域へ入院している場合、専門治療のために広域で役割分担しているのか、地元の医師不足で受け入れられないのかでは、必要な対策が異なります。
後者なのに「地元で入院する人が少ないから病床も少なくてよい」と判断すれば、医療不足を固定化するおそれがあります。地域外への搬送理由、受入れを断った件数、通院時間、家族の付き添い負担などを、数字と具体例で示すことが大切です。地域の医療を支える厚生連病院では、こうした住民の生活条件を踏まえた検討が特に重要になります。
区域全体の病床が足りていても、山間部まで医療が届いているとは限りません。積雪や公共交通の減便も考慮し、必要な時に病院へ到達できるかを確かめる必要があります。
骨太方針の支援と改革をどう見るか
骨太方針2026は、物価・賃金の変動に対応し、医療機関の経営安定と処遇改善を図るとしています。2026年度診療報酬改定時の見通しから経済・物価動向が大きく変わり、経営に支障が生じた場合は、2027年度予算編成で診療報酬上の加減算を含む調整を行う方針です。経営や賃金の実態を示し、必要な財政措置を求めましょう。
同時に、現役世代の保険料率の上昇を止めて引き下げることを目指し、これまでの歳出改革を続けるとしています。医療分野では、病院の再編・集約化に加え、デジタル技術の活用や職員配置の柔軟化も掲げています。業務改善が負担軽減につながるか、少ない人員で多くの仕事を担わせる結果にならないか、現場での検証が欠かせません。
さらに、70歳以上の医療費窓口負担割合の見直しや、介護保険の2割負担の対象に関わる基準の見直しも示されています。具体的な対象や内容は今後の制度設計によるため、直ちに全員の負担増が決まったという意味ではありません。しかし、負担の増加が受診や介護利用の控えにつながれば、重症化や家族負担の増大を招くおそれがあります。保険料だけでなく、窓口負担と受けられるサービスを合わせて考える必要があります。
計画が決まる前から職場と地域の声を
病院の連携や役割分担は、医療の質を高め、職員の負担を軽くする可能性があります。
しかし、再編で救急搬送が長距離化し、通院や面会が難しくなれば、住民の安心は損なわれます。在院日数の短縮も、訪問診療・訪問看護や介護、退院後のリハビリを利用できることが前提です。受け皿がないまま、家族に負担を移すことは避けなければなりません。
ガイドラインは、病床数を形式的に比較せず、実際の医療需要や稼働率を踏まえた協議を求めています。複数の対応案について通いやすさや人材確保も検討し、協議状況を公表するとしています。この記述を、地域の実情を反映させるために活用しましょう。
新たな構想は2028年度までに策定し、各病院が2040年に担う役割などを具体化される予定です。決定を待つのではなく、今から経営側に情報提供を求め、地域医療構想調整会議の資料や議論を確認することが大切です。職場では、欠員、夜勤負担、時間外労働、休暇の取得状況などを把握し、病棟の役割に見合う人員を要求しましょう。
再編や病棟転換が提案された際には、目的と根拠、他の選択肢、患者と職員への影響について説明を求めましょう。雇用、賃金、勤務地、勤務体制、異動に伴う研修なども、早い段階から労使で話し合う課題です。住民や患者の声と職場の実態を結び付けることが、労働組合の重要な役割です。
住民の医療を受ける権利と、職員が安全に働ける環境は切り離せません。数字に表れない困り事も持ち寄り、地域に必要な医療を具体的に示していきましょう。