希望はユニオン

 9月26日、日比谷図書文化館にて、全厚労は24秋闘決起集会が開催。

 記念講演として毎日新聞者記者、東海林智さんに労働組合へのエールとなる話として、「普通に働いても普通に暮らせないこの国を変える」と題し、昨今の日本の労働運動の現状から問題点までさまざま事例を記者の目線からお話いただきました。

コロナ禍の貧困の現場

 まず困窮したのはシングルマザー、若者、高齢者である。親子心中まで追い込まれたヤクルトレディ。特殊詐欺の受け子になった派遣労働者の若い女性と高齢者。フリーランスは現代の日雇いである。30年前より高い貧困率は賃金が上がらない中で、物価上昇しているのだから当然のこと。

理屈に合わない非正規労働者の増加、歴史と背景

 日本の労働者が困窮した背景には、95年「新時代の日本的経営」を当時の日経連(現経団連)が提唱したことに始まる。それは、正社員で採用し、定年まで働くという“日本型雇用”との決別を意味している。高くなりすぎた人件費を削減する目的であったが、30年かけて非正規を拡大させた結果、日経連でこの提言を作った者は、「やり過ぎた」と振り返る最悪の事態になっている。経営側も景気が悪くなれば(リーマンショック等)派遣切りなど労働の“部品化(商品化)”が進んだ。人をモノとして扱うことに(戦中のように)躊躇しなくなったことから2008年の派遣切りにつながり日比谷公園が派遣村の舞台となった。

“安い国”ニッポン

 非正規が大幅に増えた結果として日本の労働者賃金は低下し、“安い国”になった。最賃、実質賃金、どの項目を見ても、G7など主要国の中では最低レベル賃金水準になっている。その一方大企業は内部留保を大幅に増やし、20年間で内部留保は約3倍に。95年から少子高齢化の流れは明らかだったのに、非正規を増やし労働者から安定した賃金を奪うことをやった為、少子高齢化が加速し、人手不足で仕事があっても人がいないような状況に陥ってしまった。その一方、外国人労働者の移民を拒み、人権を蔑ろにするような政策を続けた結果、円安もあり、安い日本は“選ばれない国”になった。

 外国の賃金の伸びと日本との決定的な違いは政権交代の有無だと感じる。自民・公明が権力を握り続けることで大企業・財界の利益のみを代弁した結果“公平な分配”が阻害されてきた。

労働運動・労働組合の責任は?

 内向きの運動を続けた(企業別組合)ゆえに労働運動が社会的に広がりを作ることが出来ず。市民に労働組合の役割や姿が見えない。市民には既得権にしがみつくグループと見られ、大阪維新による労組叩きに市民が拍手、維新が人気を博す結果にもなった。ストライキにも“迷惑”との視線が注がれた。連合・産別による、積極的なストの封印の影響もある。ストをする組合に“古い運動”“左翼”のレッテル貼りをして、連合会長時代の古賀伸明氏は春闘会見で「ストは時代遅れ」と鼻で嗤った。

ストライキ戦術の再構築と社会運動

 厚労省調査でストライキの実施件数は、1974年の5197件をピークに減少の一途を辿っている。81年に1000件を割り、連合結成後、労使協調路線が推進され、さらに激減。近年は30件台になる。

 全労連が23春闘で「ストライキ戦術」を改めて提起しストを打てる組合にバージョンアップしようと呼びかけ1500以上の組合がスト権を確立し交渉に臨んだ。全医労が40年ぶりの全国ストが話題になり、24春闘でもその路線を強化した。ストの打てる組合にすることで組織強化を図ることが大事である。

 ストを打つためには組織内討議や準備など相当な労力と対話が必要である。やりきることが組織強化につながる。

そごう・西武労組の61年ぶりのスト(23年)

 連合傘下のそごう・西武百貨店の労組(UAゼンセン加盟)が昨年8月31日に池袋本店で約900人の同店組合員が1日のストに突入(大規模百貨店では阪神百貨店以来61年ぶりのスト)を決行する。会社法の改正でHD化など会社組織が複雑化する中、団交権が無力化され、労使協調路線で会社に“理解”を示しても、自らの雇用すら不透明で労組の存在意義が問われる中で、ストで対抗する決断をした。ストの効果として、スト権を立てる前の団交では一切でてこなかった売却に関わる情報が出てくるようになり、セブン&アイの井阪社長を始め幹部が団交に出席するようになった。ストの反応は「ストは迷惑」が定番であるが、市民の多くはストの好意的で労組のデモには拍手も湧いた。

【ストを成功に導いた要因】

 そごう・西武労組はスト前に店頭で市民に向けて売却阻止を求める署名活動を実施。集めた署名を地元自治体(豊島区)へ持って行き、首長に働きかけた。自分たちの雇用問題であるが、それをメインにするのではなく「池袋に百貨店を残せるかの問題」と社会的課題に持ち上げ、地域、自治体との連携を模索した。スト当日のビラや横断幕のスローガンは「私たちの雇用を守って」ではなく「池袋に百貨店の文化を残そう」とアピールした。

【理解ある社会運動に】

 そごう・西武の闘いは地域・客との連携を模索し社会的な労働運動に持っていったように、ストライキを組合だけの課題とせず、地域、市民、グループを巻き込んだ(理解を得る)社会的労働運動が求められる。社会運動と結びついた労働運動でなければ、変革や勝利をつかみとることは難しい。逆に社会的な労働運動に広げていくことが、労働運動の再生への希望となる。全厚労も社会的労働運動へと昇華して目指すことがストライキ成功へのカギとなり、希望となる。