国民から支持されてきた病院ストライキ

 全厚労2025春闘討論集会(拡大中央委員会)では学習講演に「産別統一闘争とストライキ戦術について」と題し、森田進医労連副執行委員長にお話しいただきました。講演内容の一部を紹介します。

 

森田進医労連副執行委員長

職場の要求と医療充実を掲げて

 私たち医療や介護・福祉は公的産業でありとあらゆる法律や規制のなかで働います。さらに収入の大部分を占める診療報酬、介護報酬は国で改定率が決められ、引き下げられたり上がり幅が少額であれば、我々の賃金が影響をうける形になっています。ここを突破しない限りは、労使の話し合いだけで営利企業のように儲かった部分を働いている人たちに還元しようといった交渉がしきれない所があります。同じ産業で働く仲間で集まって制度・政策の要求を掲げ、国を動かしていくことは避けて通れません。

 そのため医労連は全国規模で医療・介護に働く仲間と「産別統一闘争」に取り組んできました。古くは1960〜61年にかけての「病院ストライキ」で、東京の愛育病院では看護師の平均賃金9,650円で公務員の半額以下で働いていましたが、1・5倍の14,850円の賃金に一回の春闘で引き上げました。病院ストライキを全国的に行い、大幅賃上げを勝ちとる運動の中で「医療にかける予算配分が少ない」と国民的な世論が高まり、当時の中山厚生大臣が辞任に追い込まれる状況にもなりました。
 その他にも国民医療費の引き上げや生活保護基準が18%引き上げられました。医労連は当時から働く仲間の生活と権利を守ることと併せて、国民の医療や介護・福祉を改善させる要求も一緒に掲げストライキを行ってきました。
 1968年「ニッパチ闘争」では夜勤改善、1978「さわやか運動」では差額ベッドをなくすなど「医療改善の5つの宣言」を要求にストライキを行いました。1989年からの「ナースウエーブ」では看護師の大幅増員を掲げ、1182の病院・施設で全国10万人がストライキを行い、1992年「看護師等の人材確保の促進に関する法律」が制定されました。このような一部の職業に特化した法律は日本にほとんどありません。2007年には参議院で「大幅増員」署名の請願が採択されました。以降、採択はなされていない状況ですが、署名を出すことで紹介議員ができ、与野党関係なく国会で医師・看護師・介護士等の処遇改善の話題が持ち上げられ、毎年なんらかの形で医療労働運動の成果が積みあがっています。

患者・利用者を思えばこそ

 24年の厚労省実態調査では全産業平均11,961円賃上げに対し、医療福祉では6,876円と、政府もケア労働者の賃上げを引き続き行わなければと発言しています。

 私たちの極めて低い環境を突破していくには労働組合の働きかけが必要になってきます。その一つがストライキです。

 ストライキは法律上「業務の正常な運営を阻害するものをいふ」とありますが、それが目的ではありません。ストライキを準備することで我々の要求と真剣に向き合わせ、回答させる「戦術」として構えています。しっかり構えれば構えるほどストライキは回避でき、経営者に「やられたら困るな」と思わせることがポイントになってきます。ドイツ連邦労働裁判所の判決では「ストライキ権を伴わない労働協約交渉(労使交渉)は、集団的な物乞いにすぎない」と言われています。私たちはストライキを、使用者と対等な立場で話し合うための権利として使っていきましょう。
 スト権投票はストライキ実施の可否を問う投票ではなく、権利を確認する投票です。医療や介護の現場ではストライキの学習を毎年行わないと、「えー!」という声は必ず出ます。ストライキを構える際には、患者・利用者に対して告知を行うことや、組織内部の理解が重要です。患者・利用者への一時の迷惑よりも、人手不足が深刻化して病棟閉鎖や医療の質の低下など、長期間にわたって迷惑をかけることを回避するためであることを意思統一する必要があります。

 これは私の経験ですが、一時金が下げられてストライキの議論になり、反対する組合員の意見もありストライキを構えきれなかったことがあります。結局、一時金が下げられ年末で人が沢山辞め、一病棟閉鎖してしまいました。ようやく再開できたのは半年後で、ストライキをしていたら…とは思いませんが、一時金を下げさせない労働組合の強い姿勢があれば辞める人も少なかったと思います。一時の迷惑を考慮して、地域から入院ベッドを減らしてしまいました。
 今あちこちで起きている人員不足の背景には、コロナ禍で頑張ってきた私たちの「一時金どうしてこんなに削られなきゃいけないの」「他の産業と比べてどうしてこんなに低いの」といった報われない思いが影響していると思います。我慢しているだけでは、どうしようもなくなっている状況です。ストライキを構えてでも大きな賃上げ、処遇改善を勝ち取っていくこと、そのことを国民は支持してくれると運動の歴史のなかで確信しています。ぜひ恐れずにストライキを構えてほしいと思います。(文責・教宣部)

☆「組合員専用」ページで講演動画を公開しています。