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◆ 2021.03.20

労働基準法Q&A・詳細解説④ 時間外研修の欠席で「罰則」?


Q.病院長から「研修(時間外)を受けなかった者には、罰を与える」との発言がありました。必ず参加するようには聞いていなかったので欠席したのですが、罰を受けることになるのでしょうか?

A.「業務命令」違反であれば、なんらかの「懲戒処分」を受ける可能性はありますが、命令(明示)されていない時間外の参加は、労働者の自由であり、罰を受ける理由はありません。

――所定労働時間(定時)の勤務は、使用者の指揮命令下にあり、拘束時間ですが、終業後に労働者は解放されます。時間外にも拘束するためには、就業規則に時間外労働の規定と、「36協定」を結んだ上で、「業務命令」を発する事が条件です。今回のケースでは、明示された業務命令もないので、罰を受ける必然性がありません。上司の発言で「参加を強要する」ようなら、パワハラにもなります。
 以下、事例に関する補強説明です。

 使用者(管理者)が、労働者に「研修」を受けさせるためには、時間内の業務として出席させるか、時間外労働となる場合には、「業務命令」を発して、研修参加を指示しなければなりません。労働時間が、原則、1日8時間週40時間を限度とする労働基準法第32条の制限を越えることができるためには、先に説明した通り、①就業規則に時間外労働が規定されていること、②労働者の過半数代表(又は過半数労働組合)と、「36協定(労働基準法36に規定された休日・時間外労働に関する労使協定)」を結ばれていることが必要です。
 加えて言えば、①②があったとしても、使用者が労働者に時間外労働を命じ、労働者が時間外労働の業務命令に服する義務が生じるのは、使用者と労働者一人ひとりとの「労働契約」で合意しているからです。一般的には「会社の就業規則に従う」旨の労働契約を結んでいることが多いと思われますが、「業務命令」も「労働契約」に違反するようなものでできません。

【改めて:効力の順番を確認します】

日本国憲法>法律(労働基準法)>労働協約>就業規則>労働契約>業務命令

36協定と就業規則の範囲内の「残業命令」に、従う必要があるのか?

 事業所で36協定が締結され、就業規則にも時間外労働が生じる旨が定められ、労働契約でも時間外労働を労働者が承知していたとして、労働者が使用者の残業命令に、常に絶対的に従わなければいけないのか?
 一般的には就業規則の規定に従った残業命令であれば、原則として労働者はこれに従うべき義務を負っていると解されています。しかし学説上は様々な争いがあり、そもそも残業命令のように超過勤務については、あくまでも例外であることから、その都度個々の労働者の同意、承認を必要とする見解も強く主張されています。
 ただ多くの労働者が働く職場で、一人ひとりの労働者に個別に同意、承認を得ることも現実的ではないため、就業規則や労働協約等で定める超過労働の規定内容が合理的であるときには、命令に従う義務があるとする考え方が妥当とされ、この命令を拒否した場合に、原則として懲戒対象にすることができると考えられています。
 「36協定」では、業務区分毎に、残業が必要とされる具体的事由や限度時間を明記することが求められています。例えば、病院では「救急患者への対応」などの記載があるかと思いますが、「研修・研究のため」という理由がなければ、そもそも時間外研修について残業命令を出す根拠もありませんし、「業務上必要な研修」であれば、時間内開催を行うとか、例え時間外とならざるを得ない場合には、労働者の同意・承認を得つつ、時間外労働として扱うようにすべきです。
 また労働基準法が労働時間の基準を定める趣旨からも、時間外労働は、特別な事情がある場合の臨時的な労働義務であり、所定労働時間の就労義務とは異なり、絶対的な効力があるとは言えず、労働者に正当な理由があるときは、早退が認められるのと同様に残業を拒むことも許されると考えられています。
 事前に時間外研修の開催が伝えられ、業務であると伝えられたとしたら(これも36協定の事由にあればの話ですが)、ひとまず参加の義務は生じるでしょうが、義務参加とされなかった場合に、当日に「参加するよう」に、念押し(業務命令)されたとしても、労働者に終業後の予定があって(もしくは参加したくなくても)、その時間外労働について拒否する自由を持ちます。
 参考にできる判例として、「昭和43.3.22 東京地裁決定、毎日新聞東京本社事件※」があります。
 なお災害時(厚労省通知で、今回新型コロナ対応も含む)などの非常時では、協定なしの時間外労働や「36協定」を越える超過勤務が認められています。この場合にも事業主は労基署への事前、それが難しい場合には、事後の報告をすることが必要です。
 また先の毎日新聞社の判例でも「使用者が業務上緊急の必要から時間外労働を命じた場合で、労働者に就業時間後何等の予定がなく、時間外労働をしても、自己の生活に殆ど不利益を受けるような事由がないのに、時間外労働を拒否することは、いわゆる権利の乱用として許されない場合のあることは否定できない」としてはいますので、ご注意下さい。(下線部は編集部による)

【※参考】「毎日新聞東京本社事件(昭和43.3.22 東京地裁決定)」
「人間誰しも1日の行動計画ないし生活設計を立ててそれに従った行動をするのが通例であるから、時間外労働をすべき日時が何月何日とか毎週何曜日とかのように労働契約等で予め特定されている場合ならともかく、単に一般的概括的時間外労働に関する約束が存在しているにすぎないような場合に、終業時刻間(真)際になって業務命令で時間外労働を命令し得るとなすときは、予め予定された労働者の行動計画ないし生活設計を破壊するような不利益の受忍を労働者に強いる結果となることも考えられないでもなく、労働基準法第15条の労働時間明示の規定の趣旨とも関連して、その業務命令に絶対的な効力を認めるとすることは妥当なものであるとはいい難いあら、一般的概括的時間外労働に関する約束がある場合においても、労働者は一応使用者の時間外労働の業務命令を拒否する自由をもっているといわなければならない」( )内は判決文ママの文言





     
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